海から拾い上げられた一枚の絵

バックパックに、お弁当とスケッチの道具を詰め込み、

鹿児島市内へ向かった。

青空が広がり、さわやかな天氣だ。

見事な櫻島だ。

櫻島を描こう。

 

ドルフィンポートで撮影。

 

櫻島は、今まで何囘も描いてきたけど、

まったく同じ条件になることのない、

一期一会のスケッチが大好きだ。

自然、海や山を描くことは特に好きだ。

 

水彩絵の具と、えんぴつと、万年筆を使って櫻島と錦江湾をスケッチ。

 

絵を描き終え、

道具を片付けていると、

サーッと強い風が吹いた。

 

日陰があったので、海際から20mくらい離れたところにいたのだが、

描いたばかりの一枚の絵は、風に吹かれて海の方に向かって飛んでいった。

 

海の方へ、絵を追いかける。

 

海面を見ると、絵は海の中に落ちていた。

 

『残念だったな。でも仕方ない。』

と諦めかけたその時、

近くで釣りをしていたおじさんが、

『絵が落ちたか!』

と言って、

樂しんでいたはずの魚釣りを中断し、

海に落ちた、わたしの絵を釣り上げることを始めた。

正確にいうと、釣り上げるというより、釣り竿の先の方を海の中に突っ込み、

糸に絵を引っ掛けて、釣り上げようとしていた。

 

おじさんは

『今日はタモ(網)は持ってきていない。』

と言いながら、

何囘も挑戦するが、なかなか引っかからない。

難しそうだ。

タモがあれば簡単だっただろう。

 

わたしは、3囘ほど

『もういいですよ。』

とおじさんに声をかけたのだが、

おじさんは返事をすることもなく、少しも休むことなく、作業を續けた。

 

そして、表面に浮かんでいた絵が、海の中に沈み始めたとき、

見事、釣り竿と糸の閒に絵が引っかかり、

魚を釣り上げる要領で、どーんと陸に絵を釣り上げた。

 

ここは鹿児島!

魚ではなく、一枚の絵!

 

おじさんは魚を釣り上げたかのように、喜んだ。

わたしも、もちろん喜んだ。

絵は不思議と破けていない。

すごい。

これは奇跡だ。

 

わたしは、申し訳ない氣持ちと同時に、うれしい、ありがたい氣持ちが湧き上がり、

おじさんに心から

『ありがとうございます!』

とお礼を言った。

おじさん、ありがとう。

 

それから、何事もなかったかのように、

淡々と釣りを續けるおじさんを撮影。

 

おじさん、本当にありがとう。

櫻島が本当に美しい。

 

海風が吹き、晴れていたので、

海水でびっしょり濡れた絵は、短い時閒で乾いた。

 

海から釣り上げられたこの絵を見ながら、

これは一生忘れられない絵になったと想った。

 

釣り人のおじさんは、自分の釣り竿が痛んだり、壊れるかもしれないリスクを負ってでも、

見知らぬわたしの絵を、こうして海から拾い上げてくれた。

わたしも昔は釣りに夢中になっていたことがあるので、わたしなりに釣り人の氣持ちはわかっているつもりだ。

釣り竿の先は細くて折れやすく、釣りの最中に何度も釣り竿の先を折った経験がある。

なので、おじさんのマイ竿でアタックしてくれた、おじさんの優しさが身にしみた。

 

帰り際、少し離れたところにいた、他の釣り人のおじさんが、

絵は大丈夫だったかと話しかけられた。

 

『大丈夫でした。』

とわたしは返事をした。

 

『今日は、ここ最近でも、特に櫻島がきれいな日だよ。」

体の大きなおじさんは、そう言った。

 

海水に浸かった絵。

海水でにじんだ日付とわたしの署名。

おじさんが海から拾い上げてくれた、この絵のすべてが愛おしい。

風が吹いたこと、絵が濡れたこと、

すべてがツイている。

今はそう想える。

 

自然と、釣り人のおじさんと、わたしのコラボで生まれた、一枚の絵。

自然とのコラボ。

それは書の醍醐味にも似た素晴らしさ。

 

海に落ちた絵を、どう捉えるのか。

不幸と想える出來事をどう捉えるのか。

自分の、ものの見方次第で、

すべてが変化し、

自分の、ものの見方次第で、

すべてを良し!と捉えることができる。

そして釣り人のおじさん。

本当にありがとう。

おじさんの優しさに感動しました。

そして、

おかげさまで、人の素晴らしさをあらためて感じることのできた日になりました。

シロも空で見ていたのかな。

 

この世には愛があふれている。

感謝いっぱいで生きていく。

すべてに感謝。

感謝いっぱい。

ありがとうございます。

 

 

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